ブログカテゴリー: ラボより


学術集会、略して「学会」では様々な発表があります。

学会は、新しい知見や技術を仕入れ、

自分たちの考え方や技術の確認、いやいやそれはちょっと違うんじゃない?

なーんてことを考えながら見たり聞いたりしてお勉強をする場所です。

日本卵子学会では多くが受精卵や卵子の話題なのですが、

今回、ちょっと毛色の違うおもしろい発表があったのでご紹介。

皆さんは揮発性有機化合物(VOC)って知ってますか?

Wikipedia先生にお尋ねしたところ・・・

『常温常圧で大気中に容易に揮発する
有機化学物質の総称のことである。』


ということでした。

え?

恥ずかしながら、無学な私はこんな状態でした。

でも、ちょっと調べてみたら・・・

ホルムアルデヒド
 → 住宅の壁紙や床の接着剤とかに使用されているやつ

パラジクロロベンゼン
 → 防虫剤や芳香剤とか

と、具体的になってきました。

さらに身近なもので調べてみますと・・・

「油性マジック」 「柔軟剤」 「香水」 「室内用消臭芳香スプレー」

さて、ここまでくるとピンとくる方々も多いのではないでしょうか。

シックハウス症候群、化学物質過敏症、などはよく耳にしますよね。

最近では 「香 害」 なんてのも聞きます。

これらは、いろんなVOCが関係して起きる症状なんです。

人体に悪いものが受精卵に良いわけない!!

ということで。

当院でも受精卵のお世話をするときに使用する物品は、

すべて水性ペンで記載しています。

では、実際の発表内容がどういうものであったかというと、

このVOCの認知度調査と、

香り付き商品内に含まれている 「マイクロカプセル」

というものの飛散状況の調査でした。

はい、マイクロカプセルです。

え?

名前の通りちっっっちゃいカプセルです。

このちっっっちゃいカプセルは長期間空気中に漂っていることが可能であり、

衣服にずーーっと付着していることもできます。

そして、摩擦などでカプセルが壊れると、

カプセル内に詰められている香料や抗菌剤などが出てくる仕組みです。
(ネット上に分かりやすく説明してくれているサイトとか画像があるのですが…
著作権の問題によりリンクは控えさせていただきますね)




このカプセルの素材にVOCが含まれているため、

カプセルが壊れるたびにVOCが飛散していることになります。

発表者は病院内の様々な場所でこのVOC濃度を計測し、

外来の待合でも多かったことを報告していました。

当院の培養室職員は全職員が制服に着替えて業務を行っています。
(靴下も!)

制服は自宅に持ち帰っていませんし、

制服で院外に出ることも禁止しています。

院内であっても、培養室外に出るときには、原則白衣を着用し、

制服に汚れが付着することを防ぐようにしています。
(厚手生地に長袖なので夏は過酷です…)

また、培養室に入るときには必ず「エアシャワー」と言って、

風によって塵埃を除去する場所を通ってから入室していますよ!
(食品工場の作業員さんとかも入ってる印象ありますね)

実際にVOCの計測をしているわけではありませんが、

できるだけの対策はしていますのでご安心くださいね。

6月にコロナ渦でもひっそりと学会が開催されました。

ひっそり、というのは、多くの学会が

オンデマンド配信による開催になっているからです。

今年の日本卵子学会も、開催地(今回は北海道帯広でした)に行くのではなく、

各自ひっそりと病院の片隅でパソコンを使って

いろんな発表を聞いているわけです。
(昨年はほぼすべての学会がオンライン開催となり、それについては過去記事参照)

例年と違う、今年の学会

日本卵子学会は、生殖補助医療業界3大学会のひとつです。

大きな学会ですと「こういう内容の発表したいです!」と申し込む時期が早く、

卵子学会はいつも1月中に締切がきます。

なので当初は帯広に行くつもりでいたんです。


6月の帯広…ちょっと仙台からは遠いのですが…新緑の季節……

美味しい豚丼…🍚、刺身もうまい……🐡

というかお酒……🍷、北海道限定ビール……🍺

日本酒……🍶

六花亭本店で限定パイ食べたいな……柳月のバームクーヘン……

行きつけのラーメン屋さんまだあるかな……あの居酒屋はあるかな……


というわけで、筆者は帯広に住んでいたことがあるため、

ほわわわわ~~~となっていたんです。

いや、学会がメインですけど、はい、学会がメインですよ!
(大事なことなので2回言いました)

まぁしかし、開催2週間前に北海道でマンボウが発令され、

あえなくほわわ気分は消えました。

実際には、発表者のなかで現地発表できない方は

動画を提出するように学会側から言われており、

ここ仙台でも感染者急増だったため、

現地入りはしない予定ではいたのですけど。



相変わらず私のブログは前置きが長いですが、当院の培養室が発表した内容は、

「精子の酸化ストレスと胚発育の関係性」です。

酸化ストレス検査はまだメジャーとはいえない検査ですが、

最近すごく、すごく、すごーーーーく注目されているんです。

当院でも去年の8月から開始し、ブログでもお話ししていますので、

検査の意味を知りたい方はぜひ読んでくださいね。

酸化ストレス検査について


で。当院の結果がどうだったかといえばですね。

受 精 率 が 下 が る   ことがわかりました!!

治療をしていくうえで、受精卵の発育ももちろん大事なわけですが、

「まず受精しないと!」いけないわけです。ここがスタート地点なので。

ちょっと高いのが難点なこの検査ですが、やる意味はとてもあります。


卵子に関する学会で精子に関する発表をしたわけですが、

今回の発表で「学術奨励賞」をいただきました。

それだけ注目度の高いテーマだということが分かります。

患者さんからよく言われることなのですが。

「前にやっているので大丈夫ですー」

えぇ、前回問題が無かったのならいいかな、って思う気持ちはわかります。

しかし、酸化ストレス値は私たちの生活に大きく左右されるもの。

その時々の体調などによっても変化していきます。

人工授精、体外受精を行うときには検査してもらえると、

治療をしていく上での判断材料にもなり得ます。


ちなみに……。

今、当院では「メネビット」という男性向けサプリメントの

効能を調査する臨床研究を行っています。

「メネビット」は特に酸化ストレス値の

軽減に着目したサプリメントになっています。

参加条件はありますが、6か月間分のサプリメントを無料で提供し、

精液検査や血液検査などを行わせていただく研究になっています。
(もちろん検査費用も無料)

この臨床研究の参加者の方を 大 募 集 中 です。

ご興味のある方、参加希望の方は詳細をご確認の上、

診察券番号を添えて指定のメールアドレスへご連絡ください。


↓詳細はこちらから↓

男性用サプリメントの
臨床研究について




眠くなる春がきたと思ったら、あっというまに湿気と戦う梅雨がきました。

毎朝できるだけ真っ直ぐにセットして家を出るのに、

湿気のおかげで出勤したときには広がってるわ、うねってるわで

悲しい気持ちになる今日この頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか。


さて、当院では培養士も患者さんへの説明にどんどん出張っています。
(全国的にみると、実は珍しいそうです)

そこで、患者さんからよく聞かれる質問を紹介、回答してみようと思います。

「受精卵」と耳にすると、皆さん最初に思い浮かぶのは…

こんな感じに、中の細胞がポコポコ割れている状態を

想像する方が多いのではないでしょうか?

この、割れている大きな丸いもの(赤い矢印)1つ1つを

「細胞」といいます。

割れている細胞の数で、「4細胞の受精卵」とか

「8細胞の受精卵」と、呼ばれることになります。

そこで、よくある質問。

「え…3細胞?5細胞???あれ…
奇数ってあるんですか?大丈夫ですか???」

【答え】
大丈夫です。
あります。
普通です。

あ、これで回答終わりじゃないですので。

ちゃんと説明します。

ここから本題。(前置き長い…)

受精卵の発育=細胞の割れ方は、1つの細胞が2つに割れていきます。

2細胞の次は、2つの細胞のそれぞれが2つに分かれます。

このとき、それぞれの細胞が同時に割れるわけではないため、

片方だけが2つに割れた状態になっていれば、それは3細胞となります。

同じように考えると…

これで5細胞の受精卵になります。

こういうわけで、奇数の細胞数はよく見かけますし、普通です、大丈夫です。

本題の方が短くなった気がとってもします。

受精卵はこんな風に割れていきますよ。(映像は4細胞まで)

テーマ:

新年度ですね。



コロナ渦ではありますが、春うららか、眠気を誘う陽気となってまいりました。

年度が変わり、医療技術部のブログ担当者も変わりました。

前任より大分年齢が上がりましたが、より一層にぎやかにお届けしたいと思います。


さて、4月です。(更新が遅れて5月です…)

当院培養室にも新しいメンバーが入ってきました!

そこで、今回のテーマは「胚培養士になる人ってどんな人たち?」


体外受精・顕微授精の治療が日本で始まった当初、

検査技師さんや医師が胚培養士の仕事を兼務していました。


しかし現在では、不妊治療の発展とともに専門性が高くなり、

多くのクリニックで「胚培養士」という

専門の技術屋さんがいるようになりました。

そしてその多くが、農学・動物学系の大学出身者たちです。

ちょっと古い報告にはなってしまうのですが、こんな報告があります。

「我が国における生殖補助医療胚培養士の現状2015」寺田 幸弘先生
日本卵子学会誌 Vol.1 (1), 15–21, 2016

これによりますと、胚培養士の学会認定資格試験が始まった当初、

農学・動物形学系大学出身者の受験者は全体の約30%

医学系出身者約50%でした。

ところが、2015年の受験者では約50%農学・動物学系の大学出身者

医学系出身者約10%と大きく変わってきたのです。

なぜか?

不妊治療の現場で行われている技術のほとんどが、

動物たちで行われている技術由来です。

胚培養士を目指している農学・動物学系出身者の多くは、

哺乳動物である家畜やマウスの卵子、精子ですでに

体外受精や顕微授精を用いた研究をしてきています。

そのため、生殖に関する技術と知識は

ある程度持っている状態でクリニックへ配属されてきますので、

クリニック側としては「期待の新人!!」ということになるわけです。

とはいえですね。

もちろん、すぐに患者さんの卵子や精子を実際に扱うわけではありません。

患者さんからの大事な卵子と精子を扱うことになるため、

学生時代の研究と同じように考えていてもらっては困ります。

研究していた頃の対象はあくまでも

「卵子 or 精子」という「細胞」であったわけですが、

医療現場で相対するのは、

「患者さん」の「卵子 or 精子」です。

「間違ってはいけない世界」というのが、胚培養士の働く世界なので、

クリニックへ配属されるときや、認定試験を受ける際には、

当然ながら高い倫理観も求められることになるわけです。

さて、前出の報告には、胚培養士になる男女比率なるものも載っておりまして。

胚培養士の80%が女性なんだそうです。

まぁ…看護師、事務スタッフ、どこを見渡しても、

医師以外で男性は見かけない職場です。

ぶっちゃけ、ここでいきなり男性の胚培養士が一人入っても、

職場に溶け込むのも大変ですよね。

当院の胚培養士は現在、農学・動物学系出身者が8名、医療系出身者が2名。

男性5名、女性5名(なんと、半分は男性ってことです)

不妊治療は日進月歩です。

ぼーーーっとしていると、知識も技術もおいていかれてしまいます。

全員で、切磋琢磨しながら日々研鑽と勉学に励んでいます。


もし興味がありましたら、こんな書籍も出ています。
エンブリオロジスト 受精卵を育む人たち
こんにちは。医療技術部です。


先日、興奮してピエゾICSI(ピエゾ顕微授精)の記事を書きましたが、

そもそも顕微授精のことを記事にしていませんでした。反省。

改めて顕微授精って何?ということを記事にしてみようと思います。


顕微授精とは?と聞かれたら、

人工授精と体外受精の区別がつかない一般の方でも、

「あーなんか病院で?人工的に?こども作るやつでしょ」

くらいの知識は広がってきていると思います。

実際は、体外の環境で卵子と精子を受精させる方法の一種と

表現するのが妥当かと思います。

体外環境での受精方法は大きく分けて2つ。

通常の体外受精”と“顕微授精”です。


2つの受精方法って何が違うのか?

端的に言えば、精子が卵子に入る過程が違います。

通常の体外受精(ふりかけ法)は、

体内(卵管)で起こるだろう受精の瞬間を体外で再現している方法です。

ですので手技は単純で

“卵子に精子をふりかけて様子を見る”

というものです。

体内と同様に競争に勝った精子が

卵子に侵入し受精が起こる仕組みです。

一方、顕微授精は

人の目で良好精子を判断し人の手で卵子内に精子を入れる”方法です。

ただし、ヒトの手で行うという点が引っかかる方は多いです。
(宗教観や倫理観は人それぞれですしね)

数年前に培養士の岸田♀がART未経験の患者様へ

アンケート調査を行っていました。

ご協力頂いた方々に深く感謝いたします。

「どっちの受精法を選択したいですか?」という質問への回答です。どん‼‼

男性の結果
女性の結果
やっぱりふりかけ法を選ぶ方が多いです。

顕微授精はマイナスイメージってことですね…。

実際に自然の法則にしたがって受精できるに越したことはありませんので、

基本的には不必要な顕微授精はしない方向で治療を進めます。


当院でもレスキュー顕微授精を導入したり、

ふりかけ法の受精率アップを年間目標にしたり…

極力自然の力で受精できるような環境を整えています。

レスキュー顕微授精とは

通常体外受精成績アップへの取り組み

しかし自然の対義語は不自然じゃありません。

自然の対義語は技術です(←担当者の私見)

当院では顕微授精での受精率を上げるために様々な工夫をしています。

①紡錘体観察
②授精時間の調整
③ピエゾICSI
 等

受精率を上げるための工夫をしています。

また、受精操作後から受精までは、

受精卵の成長がタイムラプス動画で観察できる培養器にて培養しながら観察し、

正確な受精の判断を出来るようにしています。

追加料金を頂いて必要な患者様にだけ提供する

というのも1つの手ではありますが、

当院では全ての患者様に一様に提供することで受精卵の獲得数が増え、

結果的には妊娠率の向上、より早い妊娠に繋がると考えています。

自然から少し遠ざかるからこそ、技術をつぎ込む隙間が増えるということ。

通常体外受精は時代遅れ!なんて日も来るかもしれません。

なんなら機械によって顕微授精行われる未来も、すぐ来るかもしれませんね。


あっ顕微授精の時間だ。また次回。
こんにちは。医療技術部です。

実は2019年から導入しているピエゾICSIですが、ついに機械が増えます。

これで全例ピエゾICSIができるようになります!待ってました!!

当院のICSIの正常受精率も上がるのでは?!


マンモスうれぴぃぃぃ!!!


少し興奮して説明不足でした。

ICSIはご存知、顕微授精のことです。

これまでのICSIは細く鋭い針で

①ぶすっと卵子の殻に突き刺して、
②卵子の細胞膜を引っ張って(吸い上げて)
③針の中でびりっと破ります。

卵子によってはこの過程で壊れてしまうこともあります。
(少々強引に破っていますので…)

そして破れた穴からそっと精子を入れています。

精子を入れる(卵子に刺す)細い針をインジェクションピペットといいます。

↓実際の映像↓


今回話題にしたピエゾICSIは、インジェクションピペットが違います。

ピエゾICSIに用いるインジェクションピペットの

特許情報が公開されていましたので一部載せます。

“圧電素子に連結された慣性体による衝撃力により
微小駆動されるインジェクションピペットにおいて、
圧電素子を駆動する前の卵子の膜の伸展性に優れ、
胚盤胞発生率を向上させることが可能なインジェクションピペットを提供する。”

全部見たい方は↓こちら↓
 公開特許 

・・・ちょっと何言ってるのか分からないので図解しました。

ピエゾICSIのインジェクションピペットは

①鋭くありません。
②とんとんと刺激して卵子の殻と細胞膜に穴を開けることができます。

今までのICSIのように刺したり引っ張ったりしなくてもいいので、

細胞膜への刺激が少ないと言われています。

↓実際の映像↓


要するにピエゾICSIは今までよりも優しいICSIだといわれていますので、

卵子が壊れてしまう“変性”の現象が少なくなり、

受精率が向上したという報告が多く上がっています。

さらに、調べたところピエゾICSIによって

35歳以上の女性で受精率だけではなく

胚盤胞発生率が改善するという報告もありました。

論文は↓こちら↓
Reprod Med Biol . 2019 Aug 24;18(4):357-361. doi: 10.1002/rmb2.12290. eCollection 2019 Oct.


培養士の性なのでしょう。

成績改善が何よりも好物なので、冒頭のように

全例ピエゾICSIできることに少々興奮してしまいました。

ただし…いいことばかりではなく…

ピエゾICSIはインジェクションピペットの違いですと言いましたが、

インジェクションピペットを変えるだけではできません。

“とんとん”と刺激を起こす機械が別途必要です…。

インジェクションピペットも重要ですが…

実はこちらが非常に繊細な機械でして…。

そうです…ネアガリデス…

4月の導入を目指していますので、詳細はいずれHPに掲載されると思います。

値上がりしても安いと思えるような成績になるよう技術を磨き、

妊娠率上昇まで目指せるような培養形態を模索していこうと

培養室は意気込んでおります。


あ、ICSIの時間だ。また次回。

🌄あけましておめでとうございます🌄

医療技術部です。

今月は問い合わせが増えている移送についてお話しします。


ありがたいことに当院で受精卵、精子、卵子を凍結保管して、

治療している方はたくさんいらっしゃいますが、

仕事の都合等で通院が難しくなることもあると思います。
(転勤等、大変ですよね…)

日本は世界一体外受精を行っている国ですので、

体外受精の治療が出来る施設は沢山あります。

ということで近隣の通いやすいところに凍結物を移動できます。

↓詳しくはこちら↓
当院から他院への移送を
お考えの方へ



もちろん、宮城県や近隣県に引っ越してきた方の凍結物も引き受けます。

当院の凍結規定に則って保管を行います。

↓詳しくはこちら↓
他院から当院への移送を
お考えの方へ



国内は、ほぼ移送可能だと考えられますが、

施設間の違いで受け入れ不可の場合もございます。
(移送を受け入れていない施設もあるかもしれません)

また、当院の凍結規則から外れる方は当院には移送できません。

当院への移送をお考えの方は凍結規則を必ず一読してご確認ください。

海外の場合は当院へ直接ご連絡ください。

移送が出来る状況かどうか判断します。


ここまで書いておきながら、安易におススメしません。

移植日と前周期の2日だけ当院に来院し移植の処置が可能です。

ただし近隣の体外受精施設の協力が得られればですが。

当院に受精卵は保管しておいて、

近隣県や東京都・埼玉県等から移植のために通院される方もいらっしゃいます。

移動中に凍結物が損傷してしまった事例もあるので、

動かすリスクも承知いただかなくてはいけません。


実際の移送の工程は

1.移送先の確保(移送元での搬出手続き)
2.運搬容器の確保
3.日程調整
4.移送


という流れで行います。

どこかで必ず当院に来院して移送の最終決定をして進めていきます。

当院にかかる料金は2万円~7万円位です。

なお、基本的にはご自身で移送していただきます。
(乗用車と筋力があれば誰でも運べます)

遠方で厳しい場合には細胞輸送の専門業者を利用していただくと良いかと思います。

また、移送完了までには大体1ヶ月程度かかります。

当院や移送先・移送元の状況次第で何ヶ月も待つ場合もございます。

“凍結期限まで(ぎりぎり)に早く移送したい“
とたまに請けるのですが厳しいことが多いです。

大切な凍結物をぞんざいに扱えませんし、

移送が立て込むと日程の希望が通らないことも多々あります。
(余裕を持ったお手続きをお願いします)

引っ越しの予定がある方や転院の希望等で移送をお考えの方、

受精卵をどうすればよいのかお悩みの方は

一度当院HPの問い合わせフォームからご相談ください。
本記事のリンクもしくはHP下部の
「移送に関するお問い合わせ」から入力フォームが開けます。
こんにちは。医療技術部です。

朝が暗くて寒くて起きれないなぁと思っていたら、もう師走でした。

今年最後のブログ(たぶん)は、日本産科婦人科学会が

出していた報告をお伝えします。


高度生殖補助医療(ART)いわゆる体外受精の実施施設は、

実施数を全て日本産科婦人科学会へ報告しています。
(もちろん個人を特定できないようになっています)


2020年になって2018年のART件数が出ていました。

詳しく知りたい方は日産婦の報告へ
【日本産科婦人科学会雑誌第72巻第10号】


このブログでは3つのグラフだけ紹介したいと思います。

グラフをもっと見たい方はここへ
【ARTデータブック】


年別治療周期数のグラフ(タップorクリックで拡大表示されます)

↑ART治療がどれくらいされているのかを示すグラフです。

2016年あたりから治療数はさほど増えていません。

全国的にみると体外受精より顕微授精の方が多いみたいです。


年別出生児数のグラフ(タップorクリックで拡大表示されます)

ARTによって出生した児の数を示しているグラフです。

日本は圧倒的に凍結融解胚移植由来の出生児が多いです。

実は日本の胚凍結技術は世界最高レベルです。

妊娠率も凍結融解胚移植の方が高いので日本では胚凍結の方が多いです。

2018年のART由来の出生児数は56,979人、

2018年の全体の出生児数は918,400人。

なんと16.1人に一人がART由来の出生児です。
と言われてもピンときません。

よく言われるのは1クラスに2人いるって例に挙げられます。

あとはAB型の人の割合が10人に1人程度です。

ART由来の子はAB型よりも少し珍しいかな?っていうくらいです。

そう考えるとARTは身近な治療だと思いませんか?

菅義偉総理には保険適応の立案、頑張っていただきたいです。


年齢別の治療周期数のグラフ(タップorクリックで拡大表示されます)

日本は40歳の治療数が一番多い様です。

36歳くらいから妊娠率が落ち、

流産率が高くなる現状を考えると、日本の治療年齢は高めです。

年齢要因が大きいと考えられますが、治療人数に対して出産数は少ないです。

ちなみにアメリカは日本より治療年齢は低く、

年齢が高い女性には卵子提供が一般的に行われています。

ドナー卵子による治療では年齢が上がっても妊娠率は横ばいです。

担当者の英語力は拙いので皆さんこちらで確認してみてください。
【2016年のアメリカのARTレポート】

日本でも卵子提供は細々と行われているようですが…

海外で卵子提供を行うためのエージェントもけっこうあるようです。

日本の治療年齢を考えると、

卵子提供はもう少し盛んになってもいいのになぁと思います。
(↑星条旗を掲げる自由の国寄りの倫理観を持つ担当者の個人的意見です)


今年はコロナコロナコロナで、新しい発見が多い年でしたが我慢も多かったです。

来年はコロナが収束するといいですね…。


少し早いですが皆様方がよいお年をお迎えできるように祈っております。

こんにちは。医療技術部です。

鬼滅の刃によって財布のひもがゆるゆるな今日この頃です。

少し前に記事にしましたが、今年はWeb上で学会が開催されました。

学会期間中は

「○○の報告見たー?」
「見たよー!!うちでもしたーい!」
「☆☆ってどう思う?」
「草。」



などと、日常会話で情報共有とディスカッションが行われる有意義な期間でした。

こんな感じでPC片手に仕事の合間や家で学会に参加出来ました。便利。

ということで、学会で得た知見を皆様にお話ししたいと思います。

担当者的には、ゲノム編集の話が大変に興味深いのですけど…
(ノーベル賞も取りましたし)

ブログで扱うには時期尚早(炎上不可避)な気がしております。

小心者ですので無難なPGT-Aの情報をお話します。



当院でもPGT-Aの特別臨床研究が始動して

多くの方にご協力いただいておりますが、

なかなか正常胚が出ず、移植まで進みにくい現状です。

そこで正常胚が出やすいのはどんな受精卵か?

といった内容の発表があったので聞いてみました。



いつものごとく結論から話しますと、

「妊娠率が高い受精卵は染色体数正常の可能性が高い」

…当たり前では?

経験値的に認識されていた事項が、

PGT-Aによって裏付けされたってことが大きな成果です。

染色体の正常・異常には

女性年齢

TEのグレード

胚盤胞の大きさ
    が関連しているとのこと。

これらは今まで妊娠率に関連していると言われていた項目です。



少し胚盤胞グレードの解説をしたいと思います。

胚盤胞は“内部細胞塊(ICM)”と“栄養外胚葉(TE)”の

2通りの細胞から成り立っています。

ICMは胎児になる細胞で、TEは胎盤になる細胞です。

また、胚盤胞は成長段階によって1-6に分けられます。

下図のように、成長段階(1-6)と細胞の状態(A>B>C)から

胚盤胞のグレードが付けられます。




少し話はそれますが、

移植胚を決める時にICMとTEのグレードで優先すべきはどちら?

という命題がありました。

要するに4ABと4BA、どちらを優先的に移植すべきなの???ってことです。

もちろん胎児を優先すべきじゃない?と思いますが、

実はTEグレードが良い方が妊娠率は良いです。

…どっちがいいんや??



こんな感じで今までは結論がついていませんでしたが、

4ABと4BAのPGT-A結果を見ると一目瞭然。

4BAの方が染色体数正常胚の割合が高い事が分かりました。

ということで、移植胚は妊娠率を優先して決めて良いとわかったのです。

以上のようなことが最初に書いた、「PGT-Aによる裏付け」の大きな成果です。

学会の話題よりも胚盤胞の話が長くなる不思議現象が起きました。反省します。




余談ですが、(無理して読まなくていいです)

PGT-Aに供する細胞はTEです。

胎児になるICMは傷つけないように細心の注意を払います。
(胎児に悪影響を与えてしまうかもしれないので)

鋭い人なら疑問に思うのではないでしょうか。

TEの検査なら、TEグレードが良い方が
正常胚になりやすいのは当たり前じゃないか。


ICMの検査じゃないのに…ほんとに胎児の状態を反映しているの?

…その通りです。

ICMとTEの染色体一致率は95-98%ですので、

TEによって胎児の状態が必ずしも反映されるとは言い切れません。

内村航平のコロナ疑陽性が一時期話題になりましたよね。

PGT-Aも一緒です。分析技術の限界です。
(確かめるにはもう一度PGT-Aするか、羊水検査しかありません)

世の中に“絶対”はないってことかもしれませんね。

こんにちは、医療技術部です。

ここ1-2年啓蒙活動中の精子持参に関する話をしようと思います。

受精卵が、着床し、妊娠する。

“妊娠するには受精卵の質が大事”でも

“受精卵の質=卵子の質”って勘違いしていませんか?
(卵という漢字に惑わされがちでは…?)

“受精卵の質=卵子と精子の質です。

卵子と精子という二つの細胞が融合したものが受精卵です。

近年は精子に目を向けて、盛んに研究されています。


結論から申し上げますと“精子は寒さに弱いです。

より良い受精卵を獲得し妊娠に繋げるために、

冬の時期、精子を冷やさない(外気に曝さない)工夫が必要です。


詳しくは岸田♂が書いた過去記事を見てみて下さい。

「精子は寒さに弱い?!」

「精子を冷やさないために」

とにかく冷やさないように!

冷やせば冷やすほど精子の質は落ちてしまうかも…?!

でも正直、排出されているものって考えると、

あまり大事に扱えないかなと思います。

今回の記事は精子を身近に感じてもらえるように頑張ろうと思います。

とりあえず、こちらが精子です。



ちなみに原精液というのは射精された精液のことで、

おたまじゃくし形の細胞が精子です。

泳いでいるような動き、かわいいですね。

こんなに元気でかわいい精子ですが、温度管理を誤ると元気な精子が動かなくなります。

…可哀想!


凍傷って聞いたことありますよね。

精子も凍傷になると想像して下さい。

精子は自分で熱を作れないので外気温の変化に敏感です。

冷やしたらすぐ凍傷になり、加熱したらすぐやけどします。

…繊細!


我々は精子を保温し、外部の温度変化から守ってあげなくてはいけません。

手がかかる子ほどかわいいですが、

温度管理が大変そうな気もします。

我々が快適に過ごせる温度から体温くらいに保温できればOKです。

しかしながら岸田♂の記事によれば、保温に優れているものはスープジャー一択。

あとは、人肌で温めるしか今のところ思いつきません。


少し面倒だと感じる方は、SEED PODを使用してみてください。
(購入が必要ですが…)

しかし、SEED PODで持ってきても、

精液カップがひんやりしている方も実は多いです。

精子がひんやりしてしまっていたら、残念ながら使い方が間違っています…。

SEED PODの使い方のポイントは

@Linkアプリの動画または過去ブログで紹介していますので、

参考にして下さい。


「精液保温容器取り扱い
方法のポイント」



SEED PODは保温の機能しかありません。

精子(我々)にとって快適な温度にしておくことが大事です。

暖房が入っていない冬の朝、室温は快適に過ごせる温度でしょうか?

もちろん否。(暖房をケチっている私の部屋が極寒なだけかもしれません)


想像してみてください、寒い部屋の冬の朝、最も快適なところは…

そう…布団の中…。

SEED PODは布団の中で温めてから使用するのがお勧めです。

こたつ、湯たんぽ、カイロ、熱湯などは手っ取り早く加熱できますが、

人肌以上に熱されて、精子がやけどしてしまう可能性があります。

SEED PODを温める目的では使用しないで下さい。

ということで、精子が力を最大限発揮できるように、

精子を愛で慈しむ心を持っていただけると幸いです。